日本文学史マスターへの道⑭『宇津保物語』
日本文学史マスターへの道
『宇津保物語』
〔文化3年絵入本〕
『うつほ物語』のようにひらがな表記の場合もあるこの作品。
あの『源氏物語』に影響を与えたんですよ!
Japan Knowledgeの古典への招待 で詳しく内容を知ってみてはいかが?
《確認ポイント》
✔︎最初の長編物語
✔︎『源氏物語』に影響を与えた
《書名》
『宇津保物語』
「うつほ」が空洞を表す意味で、
主人公の仲忠が母と住んだ大杉の空洞に由来する。
《作者》
未詳
一説には、源順など複数の説もある。
文体から見ると漢詩文と和歌に秀でた男性と推測される。
《成立過程》
円融天皇(969〜984)の時代ごろ10世紀後半ごろに部分的に完成したと見られる。
完成には10〜30年の歳月を要したらしい。
《表現》
-
内容に従い、徐々に写実的になる。
-
ただし作中の和歌や行事の祝賀など一切省筆していない。
→全てを羅列的に記述しようとする傾向がある。
- 地の文よりも会話文中心で物語が展開していく。
《構成》
20巻から成る長編作り物語作品。
琴の奇瑞を主軸として展開していく。
清原俊陰の異国流浪譚に始まり、
一族秘曲の伝授物語を軸として仲忠の繁栄、
貴宮結婚譚、
政権争い話が続く。
《まとまりごとの大まかな内容》
☆序(俊蔭漂流と仲忠母子)
「俊陰」の巻
唐へ渡る途中に、波斯国に漂着した清原俊陰は天人から琴と秘曲を伝えられ帰国する。
俊陰は娘に伝授したのち亡くなり、娘は藤原兼雅と結婚し、仲忠をうむが、零落し、
大杉のうつほ(空洞)にすむ。
琴の奇瑞により母子は兼雅と再開し、幸福となる。
☆第1部(貴宮を巡る求婚物語)
「藤原の君」〜「沖つ白波」の巻
絶世の美女の貴宮に男らが求婚するが、貴宮は東宮妃として入内する。
仲忠は女一宮と結婚する。
☆第2部(皇位継承争い)
「蔵開」〜「国譲」の巻
祖父である俊陰の宝の蔵を仲忠が開ける。
政界では、立太子争いが起こっており、貴宮の第一皇子が東宮となる。
☆第3部(琴の秘曲伝授と仲忠の繁栄)
「楼の上」の巻
仲忠は娘の犬宮に琴の秘曲を伝授する。
「俊蔭」の巻の予言通り、音楽により仲忠一族は繁栄する。
《史的意義》
最初の長編作り物語であり、伝奇性が強い一方で、
権門貴族から庶民まで様々な人物の心の動きを写実的に描く。
短編物語から長編物語が構想され、文体が整って成熟していく様子を伝える。
長編性と写実性は『源氏物語』を生み出す土壌を作り、
『枕草子』にも貴公子2人の優劣が登場しており、後世への影響も大きい。
当時の貴族らの恋や権力闘争の日々、風俗習慣を知ることができる。
《「宇津保物語」冒頭》
むかし、式部大輔、左大辨かけて清原の大君ありけり。
御子腹に、をのこ子一人持たり。その子、心のさときことかぎりなし。
父母「いとあやしき子なり。生ひいでむやうを見む」とて、文も讀ませず、
言ひ教ふる事もなくておほしたつるに、年にもあはず、丈たかく心かしこし。
七歳になる年、父が高麗人にあふに、此七歳なる子、父をもどきて、
高麗人と文ふみを作りかはしければ、
公きこしめして「あやしうめづらしきことなり。いかで試みむ」
とおぼすほどに、十二歳にてかうぶりしつ。