日本文学史マスターへの道㉕
日本文学史マスターへの道
『宇治拾遺物語集』
〔『宇治拾遺物語』より「御堂関白殿の犬」(岳亭春信画)
宇治拾遺物語 | 書物で見る日本古典文学史 というサイトもあるよ。
《確認ポイント》
✔︎説話集
✔︎口承性が高い ✔︎世俗説話・仏教説話
《書名》
『宇治拾遺物語集』
不明な部分が多い。
説としては、「宇治に遺れるを拾ふ」や
侍従の唐名が「拾遺」であるなどがある。
《作者》
未詳
《成立過程》
12世紀末から13世紀前半に成立し、
その後加筆されたと考えられている。
《内容》
197の説話から構成されており、
連想的な配列があると考えられている。
仏教説話がおよそ80、世俗説話がおよそ120という構成で、
仏教説話では霊威・法験・往生・転生などの信仰についての話や
僧や聖の失敗談や滑稽談が含まれており、
仏教要素が薄く、現実的で庶民的である。
世俗説話は、変化に富む内容で、
舞台はインド・日本・中国とされる。
《世俗説話の例》
- 「鬼に瘤取らるるの事」
- 「雀報恩の事」
- 「長谷寺参籠の男利生にあづかる事」
- 「舌切り雀」
- 「わらしべ長者」
- 「児の搔餅するに空寝したる事」
- 「利仁芋粥の事」
他の説話に見られる教訓や批判、感想がなく、
笑いやおかしさ中心の説話が多く
教訓性や啓蒙性は薄い。
【出典に関して】
197話のうち、
『今昔物語集』とおよそ80話、
『古本説話集』とおよそ20話、
『古事談』とおよそ20話が
同文且つ同内容である。
『宇治拾遺物語』独自のものは
口承された話を踏まえた話が多い。
《表現》
「今は昔」 「これも今は昔」 「これも昔」 「昔」
で始まる説話が多く、
漢文出典の話も含めて和文体を用いている。
口語も多く、口承性も高い。
《史的意義》
説話集の中でも代表的な作品。
編者の人への興味から、
権威ある人を笑いの対象として、
弱者への理解を示している様子が見て取れる。
人間の生き様に寛容的な態度も相まって、
庶民にも享受され、広まった。
芥川龍之介に影響を与えた。
《『宇治拾遺物語集』冒頭》
今は昔、道命阿闍梨とて、
傅殿の子に色に耽りたる僧ありけり。
泉式部に通ひけり。
経をめでたく読みけり。
それが泉式部がり行きて臥したりけるに、
目覚めて経を心すまして読みける程に、
八巻読み果てて暁にまどろまんとする程に、
人のけはひのしければ、
「あれは誰ぞ」と問ひければ、
「おのれは五条西洞院の辺に候ふ翁に候ふ」と答へければ、
「こは何事ぞ」と道命いひければ、
「この御経を今宵承りぬる事の、生々世々忘れがたく候ふ」といひければ、
道命、「法華経を読み奉る事は常の事なり。など今宵しもいはるるぞ」といひければ、
五条の齎日く、「清くて読み参らせ給ふ時は、梵天、帝釈を始め、
奉りて聴聞せさえ給へば、
翁などは近づき参りて承るに及び候はず。
今宵は御行水も候はで読み奉らせ給へば、
梵天、帝釈も御聴聞候はぬひまにて、
翁参り寄りて承りて候ひぬる事の忘れがたく候ふなり」とのたまひけり。