社会主義
簡単なまとめ
カール・マルクスが提唱した思想。
生産手段の個人所有を認めず、社会全体で保有することで、平等・公平な社会を目指す社会・経済の体制。
土地や工場などを国家が保有するため、経営者がおらず、全国民が労働者となる。
そのため、資本主義社会にみられるような圧倒的な格差は生まれにくいとされる(議論の余地あり)。
一方、弱肉強食の市場原理がはたらかないので非効率な産業や企業が生き残り、結果的に社会全体の生産性が低下し、経済は停滞する傾向にある。
社会主義政治体制
マルクス主義的唯物史観に基づくと、政治という社会の上部構造は経済という下部構造によって規定される。
したがって、資本主義経済という下部構造が規定しているブルジョワ議会政治は、革命による社会主義経済への移行に伴って崩壊し、共産党によるプロレタリア独裁へと移行する。
その後の社会の理想形については、さまざまな考え方が存在するため一概には言えないが、なかには無政府の原始的共産主義(言うなればアンパンマンの世界)を志向するものもある。
社会主義経済
社会主義経済には、大きく以下の3つの特徴があるとされている。
- 生産手段の社会化
- 計画経済
- 労働に応じた所得分配(財産所得、不労所得の否定)
生産手段の社会化
生産手段(後述)の私有を認めず、国家や社会全体で所有するというもの。
具体的には、土地や企業、工場などの資本財は、個人のものではなく国家のものである、といった感じ。
計画経済
市場経済と対を成す言葉。
市場経済では、人々がそれぞれ自由に生産量や価格を決定し、自由競争によって資源が配分される。
計画経済では、政府が生産目標や価格を決定し、政府が資源を計画的に配分する。
たとえば、年初に政府がジーンズを1枚1000円で1億枚作れと言ったら、工場の労働者は年末までに1億枚を生産し、店は1000円で販売する。もしジーンズが流行して品不足になっても、値段は上がらないし生産量も増やさない。不人気で余っても1億枚作るし、値段も下がらない。
このように、計画経済では政府の計画が最優先されるので無駄が生まれやすいという特徴がある。
「労働」に応じた所得分配
社会主義経済では、資産所得は否定される。
資産所得とは、具体的には株式の配当、貸付による金利所得、不動産の賃貸所得などで、働かなくても勝手にお金が手に入る不労所得のことを指す。
社会主義経済では、資産所得は否定され、人々は自分がした労働の量や質に応じた賃金を受け取る。
前提知識
社会主義を理解するには、マルクスが行った歴史・社会・経済の分析を知る必要がある。
資本主義の分析
資本家と労働者
まず、資本主義社会には二種類の人間がいる。
- 資本家
- 労働者 である。
両者の違いは、生産手段を持っているかどうかである。生産手段を持っていたら資本家、持っていなかったら労働者となる。
「生産手段」とは
「生産手段」とは、言ってみれば「お金製造機」である。
具体的には土地や金、工場などが挙げられる。
たとえば土地を持っていて、誰かに貸せば、何もしなくても賃貸収入が入ってくる。工場を持っていれば、労働者を雇って働かせれば、自分が働かなくてもお金が勝手に入ってくる。お金も、誰かに貸したり、投資したりすれば勝手に増えていく。
つまり、生産手段を持っていれば、何もしなくてもお金が入ってくるのである。
この、生産手段を持つ人のことを、「資本家」という。
逆に、生産手段を持っていないのが「労働者」である。
労働者は、なぜ労働者となるのか。
理由は単純で、生産手段を持っていないからである。生産手段を持っていないので、お金は湧いてこない。自分で働いて、稼がなければ食べていけないのである。
資本家と労働者の差
自分たちの生活に引き付けて考えてみよう。読者のみなさんのご両親は会社員だろうか。誰かに雇われて働いているのであれば、あなたの親御さんは労働者と言うことになる。
ある日突然、「クビ。今日から会社来なくていいよ」と言われたらどうだろうか。
当然困るはずだ。明日から給料がもらえないからだ。給料がもらえなければ生活していけない。餓死するしかない。
このように、労働者は生産手段を持っていないので、労働力が売れなかったら(=だれも雇ってくれなかったら)、食べていけなくなってしまう。
ところが、資本家は生産手段というお金製造マシーンを持っているので、生産手段が誰かに奪われない限り、食うに困ることはない。余裕があるわけである。
では考えてみよう。雇い主である資本家と、雇われる労働者、どちらが立場が強いだろうか。
当然、資本家の方が圧倒的に立場が強く、労働者は弱い。
階級格差
労働者からしてみると、解雇されることが一番怖い。解雇されたら給料がもらえなくなり、食べていけなくなるからである。
そのため、労働者は、賃金が安くてもいいからとにかく雇ってもらうことが最優先となる。
そして資本家としては、労働者の賃金は安い方がいい。給料は製品の生産コストとなるので、労働者の賃金が低ければ製品の値段は安くなり、よく売れることになるからである。
このため、賃金には常に低下圧力が働く。よほど労働力が足りなくならない限り、賃金はどんどん下がっていく。
そうなると、
- 労働者の賃金は下がる
- 資本家の儲けは増える
ということになり、資本家と労働者の経済格差はどんどん広がっていく。
これにより、資本家と労働者という階級間の格差が生まれる。
生産手段の社会化
上記の問題が生じた根本的な要因は、生産手段を持つ人と持たない人がいるということである。
では、生産手段をみんなで一緒に所有すればよいのではないか。
そうすれば、社会から資本家はいなくなり、国民全員が労働者と言うことになる。
当然、労働者の中でも働きに応じて賃金の高低はあるから、多少の貧富の格差は生じる。しかし、資本家と労働者の間にあるような、圧倒的な格差は生じない。
歴史観
唯物史観
マルクスが確立した、「歴史は、経済によって決定される」という歴史の考え方を「唯物史観」という。
唯物史観では、社会を上部構造と下部構造に分け、両者の弁証法的相互関係によって歴史は発展してきたとしている。
- 下部構造:経済
- 上部構造:政治・道徳・宗教・芸術など
とし、「下部構造が上部構造を決定する」と考えた。
社会主義革命とプロレタリア独裁
労働者が団結して社会主義革命を起こし、資本主義経済から社会主義経済へと移行すると、下部構造が変革されることになる。
唯物史観に基づけば下部構造が上部構造を規定するため、資本主義経済に基づいていたブルジョワ議会政治は打倒され、労働者の代表者たる共産党が政権を握ることになる。
社会主義経済では資本家は存在せず、全国民が労働者であるから、労働者の代表たる共産党以外の政党は理論上必要ないことになる。こうして、共産党による一党独裁が容認される。