源氏物語の和歌で古典力アップ!「須磨⑤」
源氏物語「須磨」の和歌で古典力アップ!
大河ドラマ「光る君へ」で人気沸騰中の『源氏物語』、皆さん全部読んだことありますか?
54帖とかな〜り長い物語なので、一部しか知らない人も多いのでは?
この解説シリーズでは、『源氏物語』に出てくる和歌だけに絞って、単語力の強化や『源氏物語』を読んだ気になれるような解説を行っています。
「須磨」の巻の概要について
出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」
光源氏:26~27歳の頃の話
あらすじ:源氏は、春までは都に滞在していたが、政界追放をなされ、須磨へ自主的に退去した。須磨は侘しさが募った場所であり、其の地で文通市都の女性を思った。都でも源氏のことを偲ぶ人も多く、琴や絵などをするうちに秋冬が過ぎていった。そこで奇妙な夢を見る。
では、早速和歌を通して単語を押さえていきましょう!
小説風の現代語訳は、全て林望『謹訳源氏物語』から引用しています。
心ありて 引き手の綱の たゆたはば うち過ぎましや 須磨の浦波
- ****: [現代語訳] もしあなたにまことの恋心があって、その船の引く手の網のようにゆらゆらすると仰せならば、さて、うっかり通り過ぎておしまいになるでしょうか、この須磨の浦波を
山賤の 庵に焚ける しばしばも 言問ひ来なむ 恋ふる里人
- ****: [現代語訳] あの山麗どもの感で焚いている楽々、ではないけれど、この山賤の庵のような住まいに蟄居している私に、しばしば消息をよこして欲しいものだ、恋しい人里の…あの都の人々も
いづ方の 雲路に我も 迷ひなむ 月の見るらむ ことも恥づかし
- ****: [現代語訳] いったい自分はこれから、どちらの空の雲路に迷っていってしまうのであろう。そういうふわふわした自分を、かならず西に行くと定まっている月に見られては、なんと思われるか、恥ずかしくてならぬ
友千鳥 諸声に鳴く 暁は ひとり寝覚の 床も頼もし
- ****: [現代語訳] 友呼ぶ千鳥が、声を合わせて鳴き交わす暁は、こうして一人寂しく寝覚める床の上で、その声々が、なんだか心強く思われる
いつとなく 大宮人の 恋しきに 桜かざしし 今日も来にけり
- ****: [現代語訳] いつということもなく、いっだって大宮人の世界は恋しいけれど、かつて桜を揮頭して遊んだ春の今日という日がまた巡って来たことだなあ
故郷を いづれの春か 行きて見む うらやましきは 帰る雁がね
- ****: [現代語訳] 故郷の都を、いったいいつの春に行って見ることができるのだろうか。ただ羨ましいのは、ああして帰っていく雁たちだね
あかなくに 雁の常世を 立ち別れ 花の都に 道や惑はむ
- ****: [現代語訳] まだまだ語り飽いたというわけではないのに、かりそめの仙境のようなこの場所から、帰る雁(かり)のように立ち別れていけば、いったいどこが花の都やら心惑いして帰れなくなるにちがいないよ
雲近く 飛び交ふ鶴も 空に見よ 我は春日の 曇りなき身ぞ
- ****: [現代語訳] 雲近く高く飛び行く鶴が、空から見通すように、あの遠い都から見ていてくれ。私はこの春の日の晴れた空に一点の雲もないように、何の罪もない青天白日の身なのだから
たづかなき 雲居にひとり 音をぞ鳴く 翼並べし 友を恋ひつつ
- ****: [現代語訳] なんの方便(たづか)もない都で、私は一人声をあげて泣いていましょう、あの鶴(たづ)が雲のあたりで鳴いているように。翼を並べて宮中にお仕えした友を恋しく思いながらね
知らざりし 大海の原に 流れ来て ひとかたにやは ものは悲しき
- ****:
[現代語訳] ああ、今まで知らなかったとの大海原に、あの人形(ひとかた)のように流されてきて、ひとかたならず悲しい思いをすることだなあ
八百よろづ 神もあはれと 思ふらむ 犯せる罪の それとなければ
- ****: [現代語訳] この広い世界を統べておられる八百万の神々も、きっと私に情をかけてくださるだろう。 私はこれという罪を犯したということもないのだから