日本文学史マスターへの道㉔
日本文学史マスターへの道
『今昔物語集』
〔鈴鹿本(鎌倉中期写)〕
京都大学所蔵資料でたどる文学史年表: 今昔物語集というサイトもあるよ。
《確認ポイント》
✔︎説話集
✔︎天竺・震旦・本朝 ✔︎世俗説話・仏教説話
《書名》
『今昔物語集』
書き出しが「今は昔」の話が集められ、
「今は昔の物語」を集めたことに由来する。
《作者》
未詳
ただし、現存しない『宇治大納言物語』の編者である源隆国や鳥羽僧正などいくつかの説がある。
京都奈良付近の僧という説もあるが、全て根拠に乏しい。
《成立過程》
典拠となる文献や事件から推測するに、
保安元(1120)年以降で12世紀前半ごろの成立と考えられる。
《内容》
1000余の説話が全31巻に収められている。
ただし、巻8・18・21は欠いている。
天竺・震旦・本朝の3部構成で、
仏教説話と世俗説話からなる。
震旦の巻10、本朝の巻22〜31が世俗説話であり、他が仏教説話。
- 仏教説話
仏教の成立・伝来・流布のプロセス、因果応報など教理に関する話。
仏法賛美ではなく、人間の行動を凝視する姿勢が強い。
- 世俗説話
王朝が栄えている時から武士勢力台頭までの人間を描いている。
貴族・武士・僧侶・学者・医師・農民・漁民・商人・遊女・盗賊・乞食・天狗・鬼と多彩な登場人物となっている。
【先行文献】
- 中国の仏書
- 漢訳経典
- 説話集『日本霊異記』・『三宝絵』・『日本往生極楽記』・『江談抄』
- 歌論書『俊頼髄脳』
- 僧伝
- 寺社縁起
- 現存しない『宇治大納言物語』
《表現》
ほぼ全て「今は昔〜」で始まり、
「〜となむ語り伝へたるとや」で終わる。
宣命書に近く、体言と用言の語幹に漢字、
付属語と用言の語尾に小書のカタカナを当てる。
漢文訓読調+和文体で、
叙情表現・心理描写を描き、
簡潔で素朴さを出している。
《史的意義》
当時の認識では世界全ての説話が集まったものであり、日本最大の説話集。
世俗に関心を持って編集されたと考えられる。
芥川龍之介や谷崎潤一郎、堀辰雄らにも影響を与えた。
《『今昔物語集』冒頭》
今は昔、
釈迦如来未だ仏に成り給はざりける時は
釈迦菩薩と申して兜率天の内院と云ふ所にぞ
住み給ひける。
而るに閻浮提に下生しなむと思しける時に、
五衰を現はし給ふ。