医薬品工業
簡単なまとめ
医薬品工業は、
- 新薬開発は先進国がほぼ独占
- 生産は先進国・途上国どちらも盛ん(特に中国・インド)
で、開発を先進国が独占しているのは、新薬開発が
- 技術集約的
- 資本集約的
- 高度人材を要する
という性質があるため。
製造では、近年中国、インドが存在感を増している。
日本は、新薬開発では世界的にも有数の国だが、海外生産が多いため、貿易では慢性的な輸入超過となっている。
医薬品工業
文字どおり医薬品を開発・製造する工業です。 受験では重要度はかなり低いですが、稀に難関校の入試に出題される場合があるのでいちおう立項しておきました。なので気楽に読んでください。
そして、ここで取り扱う「医薬品」は、風邪薬やバンドエイドといった一般的な医薬品ではなく、病院で処方されるような、新薬や高度な医薬品といった高額なものを扱います。 (というのも、日常的な医薬品は価格が安く、医薬品市場の中に占める割合が低いからです)
性質
医薬品工業は、
- 技術集約的
- 資本集約的
- 労働力指向型
という傾向があります。
このような特徴から、一部の先進国が大きなシェアを持っています。
現在の世界では、新薬を継続的に開発できる国は、米国、英国、日本、フランス、ドイツ、スイスくらいしかありません。
なぜこうなるのか。これを理解するには、医薬品業界のビジネスモデルを理解することが有効です。
医薬品の開発
- 新薬を開発し、
- 新薬の特許を取得し、
- 独占販売、もしくは特許使用料で儲ける
これが一番儲かる方法なので、世界的な大手医薬品メーカーはだいたいこのビジネスモデルで経営しています。
このビジネスモデルの肝は、新薬の開発です。
技術面
新薬の開発には、非常に高い技術が必要です。
- 医学、薬学の高度な専門知識を持つ人材が必要で、
- これまでの研究・知見の積み重ねが物を言います。
まず、高度人材の獲得のために、医薬品工業の研究・開発部門は高度人材を得やすい大都市に立地します。
また、製薬会社がそれまで積み上げてきた研究成果や知見は、非常に重要です。それをもとにして、新たな製品の研究・開発が行われるからです。
小学校の算数しか習っていない人と、高校までの数学をマスターした人なら、どちらが数学の問題を解く力が高いか、と考えたら分かりやすいでしょうか。積み重ねが違うんです。
そして、この研究の積み重ねにおいては、日米欧といった、古くから発展していた国が圧倒的に有利です。中国や韓国といった、新たに台頭してきた国は研究の蓄積が少なく、新薬を継続的に開発する能力は未だ獲得していません。
金銭面
新薬の開発というのはめちゃくちゃお金がかかります。世界で最も研究開発費を投じているスイスのロシュ社では、研究開発費だけで1日で69億円を使っています。
当然、発展途上国にはこんな大金を投じられる製薬会社はそうそうありません。一部先進国の独占も、仕方ないと言えるでしょう。
医薬品の製造
一方製造はというと、こちらは開発ほど高度な技術は必要ありません。
そのため、安価な労働力を求め、発展途上国で生産されることも多くなります。
代表的なのが、中国、インドです。
こちらの記事によくまとまっているので、興味がある方はぜひ。
「あなたの薬も『中国製』 影の製薬大国が握るサプライチェーン」
日本の医薬品工業
日本は、医薬品の開発においては世界に冠たる国の一つですが、製造はというとあまり芳しくありません。製造コストを抑えるため、製造拠点の海外移転が進んでいるのです。
そのため、医薬品の貿易では、日本は慢性的な赤字となっています。
時々、「日本の医薬品の貿易赤字は、日本の医薬品業界が欧米に比べて遅れているからだ」という論調をみかけますが、それは誤りです。
おまけ 世界的に有名な製薬会社
受験生の皆さんも、有名な企業くらいは知っておいていいと思います。だいたいのイメージをつけるのにも役立ちますし。
(製薬会社の売上世界ランキングはこちら)
まずは米ファイザー社。世界最大の売上高を誇り、最近でもいち早く新型コロナウイルスワクチンを開発したことで一躍有名になりました。
それから、スイス・ノバルティス。ノバルティスファーマという名前、どこかで聞いたことあるんじゃないですかね。
バンドエイドで有名な米ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)。先端医薬品以外にも、バンドエイド等の身近な医薬品も取り扱っていて身近な存在です。
英アストラゼネカ社も、コロナワクチンで話題をあつめました。心疾患に繋がる可能性があるとか、だいぶ不名誉な噂が立ってしまいましたが…
我らが日本のトップ、世界でも健闘しているのは武田薬品工業(タケダ)。アリナミンを作っている会社です。アイルランド・シャイアー社を買収するなど、海外展開に意欲的です。