薄紫の霧が森を包み、時間の針がゆっくりと逆さに動き出したころ。
アリスは、月明かりが照らす道を一人歩いていた。
草の先端には、誰かの囁きがまだ残っている。――「ここから先は、帰れないよ。」
その声に振り向くと、木の枝の上で、ひとつの笑みだけが浮かんでいた。
猫の輪郭はなく、歯と瞳だけが闇に光っている。
「やあ、アリス。今日も夢を追いかけてるのかい?」
「あなた……また悪戯をしているのね。」
「悪戯? まさか。ぼくはただ、真実を見せたいだけさ。」
風が止まり、森の色が褪せていく。
チェシャ猫の瞳が、ゆらりと金色に燃えた。
「君はまだ、どちらの世界に属しているのか知らないんだ。現か、夢か。それとも……そのあいだか。」
アリスは一歩下がり、スカートの裾を握った。
「そんなの、どっちでもいいわ。私はただ――目を覚ましたいだけ。」
「君は迷っているのだね。」
猫の笑みが、空間に裂け目を作るように広がった。
地面が反転し、空が砕ける。
アリスの足元には、底の見えない闇が開いていた。
「え……!」
「心配いらない。迷ってる時、それこそが飛ぶ時なのだよ、何事もね。」
チェシャ猫の声は、音ではなく思考のように頭の中へ響く。
アリスの指先が霧に溶け、体がゆっくりと重力を失っていく。
宙に浮かぶ時間のかけら――歯車、トランプ、壊れた時計、そして鏡の破片。
その一つひとつに、彼女の記憶が映り込んだ。
紅茶の香り。
誰かの手が差し伸べられた瞬間。
でも、それらはすぐに黒い液体に沈み、泡のように消えた。
闇の底から、猫の声が再び囁く。
「アリス、深淵は怖くないさ。
そこには君の“真実”がある。
ただし――見つめすぎると、深淵も君を見つめ返す。」
落下はやがて静止に変わる。
「変化は時にユーモアと共に、アリス。」
【Music List】
0:00 Trickster’s Smike
4:41 Fading path
33:58 price of Wonder
38:44 Shattered Garden
1:13:54 Decent Between Thoughts
1:17:18 Whispers in the Fall
1:21:31 World Beneath Reason
1:55:08 Kindness of Shadows
1:57:27 Final Chapter ?
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アリスシリーズ前作↓
https://youtu.be/ptHNlUAmKQA?si=i_XKFHXJle3OhP-W
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