キメラマウスを利用したノックアウトマウスの作り方 高校生物発展
5分11秒
説明
【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
キメラについてわかりやすく講義します。
問題:複数の異なる遺伝子型の細胞からなる個体を何というか。
答え:キメラ
問題:1人の人のもつ体細胞は基本的にすべて同じゲノムをもつので、人は当然キメラとは言えない。しかし、例外的に、異なるゲノムを持つ体細胞がある。1つ答えよ。
答え:B細胞(遺伝子の再編成により、ゲノムが異なっている)
*動画の中で相同組換えを「とっかえっこ」と言っているが、実際はそんなに単純な現象ではない。導入したDNAとの間で起こる相同組換えの機構については、わかっていないことも多い。
●哺乳類の胚の細胞は、発生の初期に、内部細胞塊と、それを覆う栄養膜に分かれる。内部細胞塊は胎児に、栄養膜は胎盤になる。たまに問われる。ES細胞は胎盤にはならない(胎盤は栄養膜由来だから)ので、ES細胞は全能性(すべての細胞に分化できる)ではなく多能性(多くの細胞に分化できる)をもつとすることが多い。
●本動画では、『ワトソン遺伝子の分子生物学 第6版』に基づいて講義を行ったが、キメラマウスと野生型のマウスを交配し、遺伝子型A aのヘテロ接合体のマウスを作成することも多い。このヘテロ接合体のマウスを維持していけば、その後ノックアウトマウスを安定して作成できる(ヘテロ接合体[遺伝子型Aa]のマウス同士の交配により、4分の1の確率で遺伝子型aaのマウスを得ることができる)。
または、作製したキメラマウスと野生型マウスを交配し、生殖細胞が組換えES細胞由来の細胞により形成されているかどうかを確認(生じた子の細胞をPCRにかけて遺伝子aを持つか調べる)し、生殖細胞が組換えES細胞由来の細胞により形成されていることが確認されたマウス同士を交配し、得られた子の中からノックアウトマウスを選別することもできる(キメラマウスを野生型のマウスと交配し、次世代個体にES細胞由来の毛色が現れるかどうかを調べることによっても、ES細胞がキメラマウスの生殖系列へ導入したことを確認することができる。また、生まれてきたマウスの尾部の細胞からDNAを採取し、PCRにかけることによっても、そのマウスの遺伝子型を確認することができる。)
●キメラは、ギリシャ神話に登場する頭がライオンで体がヤギ、尾がヘビである動物「キメラ」に由来する。
● 相同組換えの発生頻度は、非相同組換え(全然関係ないなところに遺伝子が挿入されてしまう)の1000分の1以下と低いが、あらかじめ特別な配列を挿入しておくことで、現在では相同組換え体を効率よく選別する技術が確立されている。
また、クリスパー系を用いて、特定の位置で鎖を切断し、相同組換えを誘導する方法もある。細胞は、その切断の修復に、ES細胞に導入された変異遺伝子を選ぶ確率が高い。正常な遺伝子がクリスパー系によって選択的に破壊され、効率よく変異遺伝子に置き換わっていく。
遺伝子導入をマウス胚盤胞の内部細胞塊由来の胚性幹細胞(ES細胞)で行うことにより、一方の対立遺伝子が改変あるいは破壊されたES細胞が得られ、そのES細胞を胚盤胞に注入することにより効率よくキメラマウスができる。
キメラは生殖細胞の中でも起こる。したがって、キメラマウスどうしの交配により、改変あるいは破壊された対立遺伝子をもつマウス個体が得られる。
●はじめにES細胞を用いているのは、ES細胞が、もともと初期胚から取ってきて樹立した(つくった)細胞だからである。つまり、また初期胚に戻すことで、マウスの発生に参加できる細胞なのである。
●遺伝子を破壊する方法はいろいろある。たとえば、翻訳領域の始まりの方を少し削除し、フレームシフトを起こさせたり、別な遺伝子(これを薬剤耐性遺伝子にすれば、あとで選別に使える)を途中に割り込ませて標的遺伝子を分断したりすることが多い。
●意図した遺伝子導入がなされているかどうかは、その遺伝子に特異的な配列に結合するプライマーを用いたPCRを行うことによって、判別することができる。
●注意: 動物を使った実験は、様々な倫理的な法を守ることが最重要である。(今回、世界的な教科書に合わせてノックアウトマウスの作成という言い方をしたが、本来、作成という言葉は不適切である。当たり前だが、生物は製品ではない。)
●目的の遺伝子が二個とも完全に不活性化されたり、失われたりした場合、生じたマウスをノックアウトマウスとよぶ。
たとえば、機能未知の遺伝子をノックアウトした時に、発生過程で羽が無くなったら、その遺伝子は羽を作ることに関係していたのかもしれない、といったふうに研究を進める。(当然こんなに話は単純ではない。実際は、ある遺伝子をノックアウトしても、他の遺伝子がその機能をバックアップするなんてこともある。つまり、同じ機能をもつ複数の遺伝子が存在する。また、羽ができなくなったといっても、様々な形質発現のステップの、どこにその遺伝子が関与していたのかわからない。少しずつ研究を進めていくしかない)
● トランスジェニック生物の定義は様々だが、まずは、「外来遺伝子が導入された生物」と捉えておけばよい。(「単離した遺伝子を胚的な細胞に注入したとき、その遺伝子を新たに染色体に組み込んだ生物個体のこと」を指すことも多い。少し狭い意味だが。)
●胚性幹細胞 ハイセイカンサイボウ(embryonic stem cell ES細胞)とは?
生殖細胞を含む種々の細胞に分化できる細胞のこと。最近では種々の哺乳動物で樹立可能になってきたが、最初はマウスの胚盤胞(カエルの胞胚くらいの時期の胚)の内部細胞塊(胚の内部にあるたくさんの細胞の塊。やがて体になっていく)を単離・培養することでつくられた。
内部細胞塊とは栄養膜(=胎盤になる細胞群。内部細胞塊を包むように存在する)と分かれた細胞集団であり、胚盤胞の内側に位置し、将来胎仔本体となる全能性(どんな細胞にも分化できる性質という意味。後述するが、ES細胞は多能性とすることもある)の細胞である。
内部細胞塊は胚盤胞から取りだされても適切な環境で培養することによって、未分化状態を保ったまま増殖維持可能である。こうして培養された全能性をもつ細胞がES細胞である。
ES細胞は、動画のように、別のマウスの胚盤胞に注入して偽妊娠マウスに移植すると、生殖細胞を含むすべての組織に分化し、キメラマウスとして発育しうる。
(ES細胞は胎盤には分化しないので、全能性ではなく多能性をもつ、ということがある。南山堂医学大辞典にあわせて解説している。)
●ヒトES細胞の作成には、ヒトの胚を使うという倫理的な問題が指摘されている。また、ヒトES細胞から作成した臓器を患者さんに移植すると、拒絶反応が起きてしまう(それはそうである。ES細胞は、もともと他人の赤ちゃんになるはずだった細胞と見ることもできる。他人の臓器を、何の工夫もなしに移植すると拒絶反応が起きる)。
対して、iPS細胞=人工多能性幹細胞は、患者自身の細胞にいくつかの遺伝子を導入することで多能性を獲得させた細胞である(山中伸弥教授は、いくつかの遺伝子を、既に分化してしまった体細胞に導入することで、まるで受精卵のような性質、どんな細胞にも分化し得る性質を獲得させた)。iPS細胞から作った臓器なら、拒絶反応の心配はない。患者自身の細胞由来の臓器だからである。
●相同組換えとは?
似たDNA塩基配列間の交換反応を指す。その効率は、相同性の割合や、相同な領域の長さに依存する。高度な配列の相同性が相同組換えを促進することが知られている。
相同組換えは配偶子形成における減数分裂時にも起こる。また、化学物質や放射線によりDNA二重鎖切断が引き起こされた場合にも起こり得える(二本鎖切断は相同組換えによって修復されることがある。組換えに関わる様々なタンパク質が、近くにある相同な無傷のDNAを利用して修復を行う。この修復は、自然条件下では、多くの場合DNAの複製直後、2つの娘DNAが近くにある時に行われる)ことも知られている(相同組換えの詳しい過程は複雑なので、大学で学んでほしい)。
相同組換えを利用して、標的遺伝子を目的の遺伝子に置き換えることができる(標的遺伝子と相同な部分をもつDNAを細胞に導入した場合、外来DNAがゲノムに取り込まれる。組換えは、DNAを切断するエンドヌクレアーゼや、DNAリガーゼなどの酵素によって進行する)。
相同組換えの仕組みについては、完全には解明されていない。
#生物
#キメラ
#ES細胞
#バイオテクノロジー
キメラについてわかりやすく講義します。
問題:複数の異なる遺伝子型の細胞からなる個体を何というか。
答え:キメラ
問題:1人の人のもつ体細胞は基本的にすべて同じゲノムをもつので、人は当然キメラとは言えない。しかし、例外的に、異なるゲノムを持つ体細胞がある。1つ答えよ。
答え:B細胞(遺伝子の再編成により、ゲノムが異なっている)
*動画の中で相同組換えを「とっかえっこ」と言っているが、実際はそんなに単純な現象ではない。導入したDNAとの間で起こる相同組換えの機構については、わかっていないことも多い。
●哺乳類の胚の細胞は、発生の初期に、内部細胞塊と、それを覆う栄養膜に分かれる。内部細胞塊は胎児に、栄養膜は胎盤になる。たまに問われる。ES細胞は胎盤にはならない(胎盤は栄養膜由来だから)ので、ES細胞は全能性(すべての細胞に分化できる)ではなく多能性(多くの細胞に分化できる)をもつとすることが多い。
●本動画では、『ワトソン遺伝子の分子生物学 第6版』に基づいて講義を行ったが、キメラマウスと野生型のマウスを交配し、遺伝子型A aのヘテロ接合体のマウスを作成することも多い。このヘテロ接合体のマウスを維持していけば、その後ノックアウトマウスを安定して作成できる(ヘテロ接合体[遺伝子型Aa]のマウス同士の交配により、4分の1の確率で遺伝子型aaのマウスを得ることができる)。
または、作製したキメラマウスと野生型マウスを交配し、生殖細胞が組換えES細胞由来の細胞により形成されているかどうかを確認(生じた子の細胞をPCRにかけて遺伝子aを持つか調べる)し、生殖細胞が組換えES細胞由来の細胞により形成されていることが確認されたマウス同士を交配し、得られた子の中からノックアウトマウスを選別することもできる(キメラマウスを野生型のマウスと交配し、次世代個体にES細胞由来の毛色が現れるかどうかを調べることによっても、ES細胞がキメラマウスの生殖系列へ導入したことを確認することができる。また、生まれてきたマウスの尾部の細胞からDNAを採取し、PCRにかけることによっても、そのマウスの遺伝子型を確認することができる。)
●キメラは、ギリシャ神話に登場する頭がライオンで体がヤギ、尾がヘビである動物「キメラ」に由来する。
● 相同組換えの発生頻度は、非相同組換え(全然関係ないなところに遺伝子が挿入されてしまう)の1000分の1以下と低いが、あらかじめ特別な配列を挿入しておくことで、現在では相同組換え体を効率よく選別する技術が確立されている。
また、クリスパー系を用いて、特定の位置で鎖を切断し、相同組換えを誘導する方法もある。細胞は、その切断の修復に、ES細胞に導入された変異遺伝子を選ぶ確率が高い。正常な遺伝子がクリスパー系によって選択的に破壊され、効率よく変異遺伝子に置き換わっていく。
遺伝子導入をマウス胚盤胞の内部細胞塊由来の胚性幹細胞(ES細胞)で行うことにより、一方の対立遺伝子が改変あるいは破壊されたES細胞が得られ、そのES細胞を胚盤胞に注入することにより効率よくキメラマウスができる。
キメラは生殖細胞の中でも起こる。したがって、キメラマウスどうしの交配により、改変あるいは破壊された対立遺伝子をもつマウス個体が得られる。
●はじめにES細胞を用いているのは、ES細胞が、もともと初期胚から取ってきて樹立した(つくった)細胞だからである。つまり、また初期胚に戻すことで、マウスの発生に参加できる細胞なのである。
●遺伝子を破壊する方法はいろいろある。たとえば、翻訳領域の始まりの方を少し削除し、フレームシフトを起こさせたり、別な遺伝子(これを薬剤耐性遺伝子にすれば、あとで選別に使える)を途中に割り込ませて標的遺伝子を分断したりすることが多い。
●意図した遺伝子導入がなされているかどうかは、その遺伝子に特異的な配列に結合するプライマーを用いたPCRを行うことによって、判別することができる。
●注意: 動物を使った実験は、様々な倫理的な法を守ることが最重要である。(今回、世界的な教科書に合わせてノックアウトマウスの作成という言い方をしたが、本来、作成という言葉は不適切である。当たり前だが、生物は製品ではない。)
●目的の遺伝子が二個とも完全に不活性化されたり、失われたりした場合、生じたマウスをノックアウトマウスとよぶ。
たとえば、機能未知の遺伝子をノックアウトした時に、発生過程で羽が無くなったら、その遺伝子は羽を作ることに関係していたのかもしれない、といったふうに研究を進める。(当然こんなに話は単純ではない。実際は、ある遺伝子をノックアウトしても、他の遺伝子がその機能をバックアップするなんてこともある。つまり、同じ機能をもつ複数の遺伝子が存在する。また、羽ができなくなったといっても、様々な形質発現のステップの、どこにその遺伝子が関与していたのかわからない。少しずつ研究を進めていくしかない)
● トランスジェニック生物の定義は様々だが、まずは、「外来遺伝子が導入された生物」と捉えておけばよい。(「単離した遺伝子を胚的な細胞に注入したとき、その遺伝子を新たに染色体に組み込んだ生物個体のこと」を指すことも多い。少し狭い意味だが。)
●胚性幹細胞 ハイセイカンサイボウ(embryonic stem cell ES細胞)とは?
生殖細胞を含む種々の細胞に分化できる細胞のこと。最近では種々の哺乳動物で樹立可能になってきたが、最初はマウスの胚盤胞(カエルの胞胚くらいの時期の胚)の内部細胞塊(胚の内部にあるたくさんの細胞の塊。やがて体になっていく)を単離・培養することでつくられた。
内部細胞塊とは栄養膜(=胎盤になる細胞群。内部細胞塊を包むように存在する)と分かれた細胞集団であり、胚盤胞の内側に位置し、将来胎仔本体となる全能性(どんな細胞にも分化できる性質という意味。後述するが、ES細胞は多能性とすることもある)の細胞である。
内部細胞塊は胚盤胞から取りだされても適切な環境で培養することによって、未分化状態を保ったまま増殖維持可能である。こうして培養された全能性をもつ細胞がES細胞である。
ES細胞は、動画のように、別のマウスの胚盤胞に注入して偽妊娠マウスに移植すると、生殖細胞を含むすべての組織に分化し、キメラマウスとして発育しうる。
(ES細胞は胎盤には分化しないので、全能性ではなく多能性をもつ、ということがある。南山堂医学大辞典にあわせて解説している。)
●ヒトES細胞の作成には、ヒトの胚を使うという倫理的な問題が指摘されている。また、ヒトES細胞から作成した臓器を患者さんに移植すると、拒絶反応が起きてしまう(それはそうである。ES細胞は、もともと他人の赤ちゃんになるはずだった細胞と見ることもできる。他人の臓器を、何の工夫もなしに移植すると拒絶反応が起きる)。
対して、iPS細胞=人工多能性幹細胞は、患者自身の細胞にいくつかの遺伝子を導入することで多能性を獲得させた細胞である(山中伸弥教授は、いくつかの遺伝子を、既に分化してしまった体細胞に導入することで、まるで受精卵のような性質、どんな細胞にも分化し得る性質を獲得させた)。iPS細胞から作った臓器なら、拒絶反応の心配はない。患者自身の細胞由来の臓器だからである。
●相同組換えとは?
似たDNA塩基配列間の交換反応を指す。その効率は、相同性の割合や、相同な領域の長さに依存する。高度な配列の相同性が相同組換えを促進することが知られている。
相同組換えは配偶子形成における減数分裂時にも起こる。また、化学物質や放射線によりDNA二重鎖切断が引き起こされた場合にも起こり得える(二本鎖切断は相同組換えによって修復されることがある。組換えに関わる様々なタンパク質が、近くにある相同な無傷のDNAを利用して修復を行う。この修復は、自然条件下では、多くの場合DNAの複製直後、2つの娘DNAが近くにある時に行われる)ことも知られている(相同組換えの詳しい過程は複雑なので、大学で学んでほしい)。
相同組換えを利用して、標的遺伝子を目的の遺伝子に置き換えることができる(標的遺伝子と相同な部分をもつDNAを細胞に導入した場合、外来DNAがゲノムに取り込まれる。組換えは、DNAを切断するエンドヌクレアーゼや、DNAリガーゼなどの酵素によって進行する)。
相同組換えの仕組みについては、完全には解明されていない。
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