あの静かな五輪から4年――世界陸上東京でよみがえった歓声

あの静かな東京オリンピックから早4年、2025年9月、あの国立競技場に大歓声が蘇りました。
世界陸上東京大会が行われ、大歓声が再び東京を包んだのです。
今回は世界陸上東京大会の振り返り、日本人アスリートの活躍、そして今大会を支えたテクノロジーの進化について解説していきます。
国立競技場について
まず今回の会場となった国立競技場についてです。
この競技場は1964年の東京オリンピックに合わせて建設され、その後2020年東京オリンピック(新型コロナウイルスの世界的パンデミックにより2021年へ1年延期)の開催が決まったことをきっかけに建て替えられた比較的新しい競技場。
当初はさまざまなデザイン案がありましたが、最終的に現在の形に落ち着いています。
この国立競技場、観客席の最大の特徴は特殊な迷彩柄です。
遠目から見ると観客がいなくても、あたかも観客がいるように見える仕掛けになっており、選手がやる気を高められる工夫がされています。
本来は無観客を想定して作られたわけではありませんが、結果的に印象的な存在となりました。
(国立競技場)
(大会非開催時に筆者が撮影)
無観客五輪から歓声の復活へ
2020年の東京オリンピックは無観客での開催となってしまいました。しかしそこから4年の時を経て、東京に大歓声が戻ってきました。
今回の世界陸上東京大会では、100mやリレーといった人気種目が実施される日時のチケットはほぼ完売。
大会全体の観客数は速報値で61万人に達したと報道されています。無観客だった五輪からの復活は、個人的にも非常に感慨深い出来事でした。
日本勢の活躍
では、日本勢の活躍はどうだったのでしょうか?
今回、日本は惜しくもメダルの獲得数は2個にとどまりました。
メダルを獲得したのは男子35km競歩の勝木隼人選手(自衛隊体育学校)、女子20km競歩の藤井菜々子選手(エディオン)がそれぞれ銅メダルを獲得しました。
また、男子円盤投げでは生まれつき両耳に重度の聴覚障害を抱える、湯上剛輝選手(トヨタ自動車)が、健常者に負けず世界の舞台で戦い世界中に勇気と感動を与えました。
またメダル争いが期待されていた男子4×100mリレーは予選をしっかり走り切り、決勝でもハプニングがありながら無事に走り切って6位入賞という結果を残しました。
リレーでのメダルを獲得できなかったのは残念でしたが、それでも日本選手たちは各種目で全力を尽くし、多くの場面で存在感を見せました。
自分以外の誰かのために
筆者が特に印象的だったのは男子4×100mリレーで第3走を務めた桐生祥秀選手(日本生命)の言葉です。
桐生選手によると、走り始めた瞬間「ふくらはぎをつってしまった」そう。
それを踏まえ桐生選手は「僕がちゃんと走っていれば、メダルもいけたと思う。僕の責任」と自身の責任にしました。
しかし実際に走りを見ていた限りでは、桐生選手の走りが特段遅かった訳でもなく、仮に桐生選手が万全の状態だったとしてもメダル獲得は難しかったと思います。
ただ僕が印象に残った理由は論理ではなく、その考え方です。今回、桐生選手はリレーメンバーの中でも歴が長くある意味で「リーダー」的存在だったと思います。
むしろ彼はリーダーとしてメディアの前で自らの責任とすることで、「3人の仲間を守ろうとしたのではないか」と感じました。
リーダーである自分の責任にして仲間を守る姿勢に、私は強く感動しました。こうしたコメントのおかげで、心無い人やメディアは他の3名を攻めることが出来なくなりました。
高校3年生で10秒00を出した時から調子が良くない時にメディアから心無い報道をされてきた彼だからこそ「自分以外の仲間のために」。ある意味で今大会、一番私たちが学ぶべきシーンかもしれません。
私は小学・中学時代に陸上の短距離を経験し、何度か桐生選手に指導していただいたこともあり、特にリレーと桐生選手には感慨深いものがあります。
その意味でも、桐生選手の言葉には深く心を打たれました。桐生選手をはじめリレーのメンバーは責任を背負いすぎず、ぜひ次につなげてほしいと願います。
テクノロジーの進化
今回の大会では、競技以外の面でも進化を感じられました。今大会はホンダがタイトルスポンサーを務め、投擲種目ではホンダ車型のラジコンカーが器具を回収する役割を果たしていたのです。またドローンによる撮影も導入され、映像表現の幅も広がりました。
ちなみに2020東京オリンピックではトヨタがスポンサーで、トヨタが開発した自動運転のロボットカーが投擲物を回収していました。それぞれの回収装置を開発した企業は異なりますが、いずれも日本の技術力を示す取り組みであり、自働化とスポーツの融合を感じさせました。
(画像は権利の都合で東京五輪で活躍した投擲種目で器具を回収し自動で走行するFSR。本大会はホンダ製のラジコンカーが使用された)
(引用元はこちら)
最後に
無観客の東京オリンピックから4年。世界陸上東京大会は、観客が戻り、歓声が響く大会として開催されました。
アスリートたちが自分以外の誰かのために戦う姿、そして大会を支えたテクノロジーと日本のものづくり。そのすべてが融合したこの大会は、復活の象徴といえるものでした。
皆さんも今大会を支えたアスリート、そして日本のモノづくりを応援して欲しいと思います。
最後までありがとうございました。